melophobian

安川奈緒の現代詩手帖掲載詩などを写経のように書き写す。

「まちがえて海にくるか?」安川奈緒

とつぜん海にでる

わけない

「この砂はどこからくるのか」

まちがえて裸んぼ

ラジオを飲みこむ

 

お腹いっぱいになって深く眠る

両親を殺すひきこもりの感じで

指に力が入る

「むかしピアノを習ってました」

 

小学校の遠足のマネして

「はやく年寄りになりたいね」

貝殻を拾おう 海草にさわろうよ

でも

海をわたって病院にきてしまった

 

いちばん大事なヒトは眠り続ける

いつあなたがすきだったかな?

 

自分を殴るのがやめられない

顔を平手打ちして

頭を壁にうちつけて

ほんとうは

あたらしいところに行きたかったし

めずらしいものを食べたかった

「あれはいつのことだったでしょうね」

カモメにえさなんてあげないよ

自分で食べちゃう

砂浜とか嘘だろ 埋め立てだろ

なんどでも死んで

なんどでも生きかえる

はずかしいほどに

「Love Streams」安川奈緒

長い、ここから先はとても長い

恐ろしいほど多くの花

五才で容姿は固定された

なんでこんなこと思い出すのか

始発がもうきた

 

十五、十六、十七才は暗かったな

ストーカーまがいの電話をかけまくって

裏山を走りまわり山菜を盗み

それでも趣味はジグソーパズル

 

十八才で何らかの常習

入院先で膀胱のサイズをほめられる

病院の窓だけが美しい

菜食をやめて肉食一本化へ

海のない土地に生まれたことを恨む

 

十九才で ああ とうとう

わかってしまった

自分の黒子の数のすごさが

これだけで一年を動揺のうちに

終えたわけではないが

男の影もなかったなそういえば

 

二十才で実家が呉服屋のくせに

成人式を蹴とばす

「なんでなんだろうね この子」

おばあちゃんを泣かす

しかし今日なにもかもが完治した

 

過去はたいした長さじゃなかった

今日はなんでこんなに長いのか

それにしてもあの顔を見ると昔のよくない

奔走や電話を忘れられる 笑いかけてくれ

これはどうも違うな笑ってくれ

「おまえクソだな」とかいって笑ってくれ

頼むから笑い飛ばしてくれ

「Becoming you」安川奈緒

それは、ありやなしやの晦渋によってしたためられた足裏健康法…… お前はめくられるバーガーの類として生まれた、そしていくつかの傑作ポルノを残して死んでいく そのポルノは縦二〇センチ、横十五センチ、高さ三センチ、上から85、50、80である すなわち常に虚偽であり、書物でなく女体でなく、そして苦瓜に至るまで……

 

この適度な空腹の時代に、自分より偉大なものは後ろから来る、すぐ殺せ 愛は断固として見返りを求めるということに変わりはない 見返りを求めない愛ほど不潔なものを私は知らない そして、無償で空間にいるわけではないのだから、お前の愛以外はすべて借金だと思う 「私は決して描写はしない」と言う鳥が灰になり ユニクロはどこにでもある

 

驚くな、ちょっと動いただけだ 壁のもとではすべてが芝居がかる まるで今が晩年ではないかのような演技が カリフォルニア・ロールの二人を包み込む ここにおいてなのだ、人間の形象の奴隷であることから解放され、別の可能性が躍り上がるのは「何か取るべき責任があるなどと、勘違いしたりしない。不安定の「印南」に対してさえも」だが、記憶、記録、忘却のすべてがおしなべて悪いと分かった時のお前の顔ったら!

 

「こんな筋、あんな筋」というプラカードを掲げたままで、私たち、赤い麺を挟んで抱き合った 離れない 「痴話だね、活用された語幹だね、でもここからはお楽しみに、なぜなら具ばっかりだから、具しかないから」斬首を見ると斬首を思い出すが斬首など見たこともない B・B、C・C、K・K以外のすべてを船に乗せ、どさくさにまぎれてどさくさにまぎれる時、いつも勇気をくれるのは「ヒ・タ・イ・ガ・セ・マ・イ・ネ!」

 

これらの行は、ある時間に、ある種の姿であることを強いられた者のために? しかしアイダホはポテトの州のままであり、苦しまない飼い葉桶というものもある お前は男の作品と化し、精神をすっぽりと抜き、肩を叩かれると「それいけ、問われろ知識人!」と言うだけの女 今は何を見てもお前を思い出す 人から見ればいつだってヴァニタス

 

「見てみろ、この体はお前の体を正確に模倣している お前の体になるために、今まで生きてきた、そして努力を重ねてきたんだ お前の醜さを見せてやるために」

 

死刑になったことがないから分からない でも蔦をくまなく眺めるということはありうると思う でも接吻の担架の上で切ない寝返りをうつ者があるのに…… 足がありすぎる者に松葉杖を与えようとも思うのに……「一度も視線を向けられずに遺棄された人の悲しみ、喜びよ」ここに出会ったばかりの蛸がいる 連れて帰ってきた 人生で手にしたのはこれだけだ 大切な人、その人の形をした海から連れて帰ってきたのだ

「必要性の丘から連絡する」安川奈緒

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「薬局でのくすぐりが偉大だった日」安川奈緒

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《You are so lucky, you are so lucky》は《Let them eat Prozac》と同じことを意味しているのだろうか それではあまりに厳しすぎはしないか ドキュメント「横槍」を見ていた 定期購読はそう続かなくて 駆け込み訴え(あいつらは、忘却の努力を怠っているにもかかわらず、病身を僭称してるんです……)に取って代わられたが 自分の過失と相手の過失を見極める無限剃毛はここから始まる

 

「ああ、朝だ、今日は膀胱神が来てくれるよ、俺はおまえを、そこで世界が不当に悶える空虚な湖面として、すなわち偽の患者として愛したのに……Zentralpark」

「いやです、私は豊穣な属性の束に戻るのです、Central park

 

誰の心にももう迫りたくないとカルテをつるつるに磨いた 「空ぶかしの生」と刻まれているある種の肌の上を 包帯とカイロが競って、競い合って隠しにかかるようだった だから私は 「檄文時代、離乳食時代、現代」と叫んで必要の万力を取りに行った 誰かが「農具でもいいんだ」と教えてくれた 全身から疑惑を滴らせながら教えてくれた

 

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「私を見るな、私は否定の接頭辞でしかなく、終電に乗った太陽」

「使い途のない否定性は、見つめられることを欲している ただ見守られることを いつか終わるまで温かく見守られて その視線に気づかない渦中の否定性は、見守られてあれ」

 

「やなもの見ないうちに、死にたいっすよ」との賢しい歓迎に体を「く」の字に折って喜んでいたら狂言豊作という罪名で捕まった でもあなた、その薬剤師という肩書きだけで話しかけないでほしいと思うから こんなふうに私に言ってくれないか「カモン、カモン今日は恩赦の見せびらかしの日です そのために、あなたは来た」、と