melophobian

安川奈緒の現代詩手帖掲載詩などを写経のように書き写す。

「リーチュアルラブの機械」安川奈緒

部分的に機械でできているので 空港で撃たれてしまった ほんとうに撃たれてしまった 「男は三人しか存在しなかった」と叫んだ

 

部分的に機械でできているのに どうして髪を洗ってしまったのか あれほど止められていたのに 「女は下の名前で呼ばれる千佳子 千佳子 千佳子」すべてはあらわになっているので だれかがだれかに似ていたり だれかがだれかと違っていたりすることはもうない

 

「壁にとけこんでいるだろうか」

 

自動的な恋にふさわしい機械の部分 はっきりとした視線や服の脱ぎかたは 思い出のなさをあらわしている ピクニックの思い出がないことのうれしさ 学校の思い出がないことのうれしさ うれしい どうしてしまおうか こんなにもうれしくて でも 電報はほしい 電報だけがほしい 防水ではないのに泣いてしまう

 

「食事をいつまでもことわること」

 

都会をうろうろする機械 怒りのこもったしぐさをするだけで 接続部をつぶしてしまう わたしは少しだけわたしの神だ もう 自分の部屋をもたないし 秘密をもつこともない 窓に頬をおしつけて 暴力のなごりをしずめる それでも音楽は どこからかやってきて こころあるものを こころないものにする

 

「撃たれたのに終わりのないことの悲しみ」

 

はっははと声をたてて 水泳で消えてゆく機械 このまま マダガスカルに行こうというのはどうだろう 魚と見分けがつかなくなるだろう 夏子にはいつも嫉妬させられた 都会でふるえるほどうれしいときにも 夏子はわたしを苦しめて 男はだいたい三人ぐらいいた 男は三人でつるんでいた 男は百人ぐらいいた

 

ところであなた 十分後になんの変化も起こさないという倫理のあなた 落ち着けばいい あなたが暴力にふさわしかったことは一度もなかった 塔にのぼりつめて いつだって暴力の余地がないほどに疲れはてていたから あなたになにを言おうか 機械なら 機械のやりかたで 口にだせばいい 弾をよけて 弾切れのはじまり

 

「あなたが光源なのはにくらしい

    それでもこれは儀礼的な恋だから」