melophobian

安川奈緒の現代詩手帖掲載詩などを写経のように書き写す。

「連詩 ダーティーエピック・フラグメンツ」安川奈緒

「Inaugural(happy turn)」

 

縊死のパラダイムから見れば、すべては天使か、だが、これが傷跡だと認められてしまえば、まだ回帰の物語が始まってしまうから、それは避けて

 

すべての開始は汚れている、すべての終わりもまた 神話は空間をひきしめず、共同体をひきしめず、神的な暴力のおとずれ、救うものの出現を待望することはできない 救うものの待望は、ニヒリズムの反復にすぎないから 救済の待望は、その肌理のすみずみに、破壊が「もう一度」あることを、「もう一度」によって自己意識と自己意識の粉砕とを味わいつくす予感をはりめぐらせているから このとき、菊に降られたジャン=バチストは「危機あるところ、救うものもまた育つ」と云った者を深く深く刺した

 

その汚れが欲しい、歴史の開始と終わりの汚れが欲しい それはとても汚れているということだけがもう分かってしまう 縊死のパラダイムはすべてを天使にした、すべてを催涙体文体にした このとき海上保安庁は…、このときシマオ・トシオ号は…

 

わたしたちは書き言葉として推移します、わたしたちは疎外のない書き言葉、反省なき手遅れとして推移し、書き終えられた人として、おとろえ、壊れ、彼岸の秩序を解き放つつもりでいます すべてがすでに、あるがままで「異言」であると知った眼は、詩的言語の必然性さえをも認めない、そのような「不当な死者」のカテゴリーをわがものとする眼を掲げて推移します もちろん、わたしたちはアンティゴネーとは似ても似つかぬもの、意志をもたない悪しきもの、なぜなら「髪の毛一本たりとも」数えられたりしない、多数であり、あらゆる摩擦を避けず、生きているとも言わず、生きているとも言わず、書き終えられたものとして、あらゆる場所に間接性の嘆きの形式、残滓をもたらします

 

今日もまた自殺したAV女優の夢を見た、額に汗して、どちらが働き出すか、待っていた生協の車とamazonの車が走り抜ける道(からだ、こわしてる?)、太平洋ベルトに平行する大逆事件ベルトに沿って、流通に拝跪した顔面と、すべての流通が死んでいく腸を抱えて、竜の歯さえ、その歯垢さえもうゆるがせにはできないよ(からだ、こわしてる!) Try Not Toの構文と、I Want You Toの構文のあいだの(てんしとけっこんするのはつらい)未遂性を保持できないか、たった一度しか自殺できないなんてつまらない

 

「そしてそこで死と傷からなおって」しまったから、「抒情する」という自動詞の属性の記述をまた始められる「わたしは」から「きみは」への声の変圧、その起こり終わりをつかんで離さないことをまた始められる 記憶なく無限に繰り返された「そしてそこで死と傷からなおって」の無人性は、「治療」がとても汚れていることを伝える、「治療」地震の鼓動、自分で壊れる担架のhappy turnだ

 

あなたはあなたの立場のなかで持ちこたえてください、わたしは誰かがわたしの立場のなかで持ちこたえます もう一度体を合法へともたらすときの暗さの光のもとで食事をしよう、蠅を招こう、犠牲をつくろう だって、虚構の力点はいつだってこちらがわにあるんだって! 真っ青な猪肉が感じたパニック・イン・シネクドキは偉大と矮小の区別がもうできないんだって! 「世界のなかに世界を挿入する」のは馬を馬跳びで越えることだって! でもそんなことの起こらなさはあらかじめ庇われていた 規模ある怠業の予感に報われることの起こらなささえ、時折(time)、時折(out of)、時折(joint)、庇われていた 流出一号はPlease turn. Happy turnと連絡し続けていた 「流出二号よ、リコシェに感謝する難読の難破、その究極の姿勢から放たれてみろよ、そしてそれを見てみろよ、Please turn. Happy turn.」

 

 

 

「人生の光芒」からの手紙

 

奥歯も、チルほど寒い

このビルももう空きばかりになってしまう、だからね、そうやって肉片と髪を落として

散弾してもいい、

 

こんなところで野菜がとれるとは思わんよ、カラフルが補われるとも思わない

か、悲しい顔をしてみせる、「悲しい」と言ってみさえするのに、何もしない

きみは、店員は客に殺された影なの、だから店員に殺された客の、きみは影なの、

でも、I was falsetさん、眼の中の血走りさんも、

映画を見て、パラリンピックを少し見て、二千年前の「反射角人」は

気候の変動に耐えられず、権力を奪取することを目的としない運動体を

作りました、この一連の過程をのちの歴史は「白兵病」と呼んでいます

Because we separate, picture please

乏しい色の未来が、リアライズされるのは

 

方肺が片方ない人の代わりに、深呼吸をしている

きみの物質と記憶のために、きみのコンタクトレンズを口にいれてもいいかな

蛍光黄色の、ラングとパロールの転型の闇を見すえて、

おお、国際生協よ、フライのパンよ、どのような内省がありうるのか考えている

自分の眼の喪失を見ることができない、の縄をかければ、

チュ(ウ)ニングの調整によって、death by hangingの耳鳴りね

やたらチラつくBildungsromanのずぶぬれの終わりの音なの

 

本当の薪を持ってきて、本当のペンで、本当の朱肉ほしい?

その朱肉はわたしの無です、だからどうか困らないで、って

これも野郎仕事ですって、矯正器具をよく見せて、って、ですって

こんなふうに曲がりたくはなかったと振り返ると、汗が止まらない桁違いの塔が見える

この高さの夜の、春雨ヌード(ル)の擦り寄りの、

あつさ、山羊や羊に関する単語は覚えられたの、さむさ?

9、9、1、1、3、1、9、1、9、痺れあがる、と言われていた

 

(とろ肉で?)先に行け、空間だ、懐かしい読み上げ算の雰囲気に

噎せるさ(こんな字しらないさ)、ポリッシュを見さして、見さして、くれ

きみは、甘味処で、仮定していると、働いているとしよう、このビルはもう

空きばかりになってしまう、その、が、かつて、は、見限りましょう、見限りましょう

多国籍のほうも、恥を感じていないというわけではないのさ

いくつかの写真では、ピースしてしまったさ

劣悪な環境と名指されたきみの設定を、

設定への愛にもとづいて、変更してあげようと

思った、ひとりにひとつ、ひとりにひとつの(記述の)束を裂いて

 

多国籍は恥ずかしげもなくピースしてしまったさ、伏せられた企業名の、前でさ

首元までセキュリティチェックの人が、いかにも食ってきた顔で、

いろいろ言ってくるから、もう正気じゃないふりした、昨日の仮面も、今日の仮面も

とてもしっとりしていて、パライソって書いてあって、

死んでいく人間の間接話法の痛ましさについて、死ぬ前に心電図を壊して

よくわからないようにしておくことについて、指示もあって

苦情ある物質、その餅を挟み込むような驚きに、下絵はもう、整えられていたから

 

わたし(1)は一九八九年から、わたしは、一九九六年から、いいことなんて何もなかっ、

きみは、あー、その決して画素の細かくない抒情が、これから、あー、

お礼参りに来るようだ、雷雨の色を縫った、ホワイトバランスの鳩を

舞いあげ、舞いおろし、あー、これは日本語の練習のような質問です

交代制だということは、ですか

講談、社文、芸文、庫に書いてあった、人、生の光、芒にいますか、

カールツァイスは生涯の耳栓だから、う、うれしくないよ、だってどう画、だよ

(泣きたくなるような検索をしていたことを、泣いたことのかわりにしていい?)

(このビルももう空きばかりになってしまう、だからね)

鋤をくわえさせられた悪性の陽光のもとで、その時

わたしは「殺されたい」と言うだろうか、「殺されたくない」と言うだろうか

深く動揺を思って、人がいなくなり、小皿が吹き荒れたところ

だからね、シビック、肉の部分をこっちにパス、笑って取り次いであげる

 

 

 

 

「馬の群れの遺影が」

 

きたない

こと

いっぱい

 

これ

いじょう

きたない

こと

ない

です

 

幼児の

ことば

しか

むり

あー、あー

中将姫の

お寺

参り

あー、あー

もう

いない

人へ

あー、あー

よごれた

からだ

裁かれる

倒れる

おもしろいな

よごれてるな

あー、あー

 

こっちによるな

きたない

 

明るい

木のような

ほんとうに

きれいな

渡す

ように

「幸」の

文字

 

(お墓を掃除するからだのきれいだったこと)

(歩くときの少し延ばされた掌の)

 

私たちの

子どもは

待機

していた

灰に

なるまで

ほんとうに

待ち

くたびれて、

待ち

くたびれて、

待ち

くたびれて、

待ち

くたびれて