melophobian

安川奈緒の現代詩手帖掲載詩などを写経のように書き写す。

「病気でも男でもない すこやかな女」安川奈緒

喫茶店でのことだが コーヒーカップと二枚の皿がある完璧な調和のもとに並んだ これはうれしいぞ捜しものが見つかる前兆だぞと考えた

 

隣のテーブルの男二人が力強く食べる こちらも負けないくらい力強く食べる おとこのひとはうらやましいな 嘔気も下痢もむこうからやってくるんでしょう おんなのひとはじぶんでいろいろがんばらないといけない

 

窓から道路が見下ろせるのだが 男が一人信号を待っている 青になる 渡らないで反対方向へ駆け出してしまった これはどうしたことか しかもそのあとすぐに救急車が車道を駆け抜けたのだからあやしい

 

隣のテーブルで学術書とノートが広げられた腎臓の断面図と尿の生成について こちらも負けじと コーヒーカップと二枚の皿を動かし より完璧な調和をめざす

 

昨日は部屋に男を捜しました 家には部屋が数え切れないほどあるのですが ある一部屋だけをくまなく捜しました その部屋にいるはずなのですが いませんでした

 

ああ やめておけばよかった コーヒーカップと二枚の皿の配置がだんだんおかしくなって おとこのひとはうらやましいな なにもしなくても病気だから おんなのひとの健康ぶりといったらひどいものです

 

 部屋で着替えるとき

 腋の下で子蠅が死んでいるのをみつけた

 今日は男になれるかもしれないな

 そいつは吐くかな 吐くだろうな