melophobian

安川奈緒の現代詩手帖掲載詩などを写経のように書き写す。

2014-08-27から1日間の記事一覧

「週末のおでかけ/yourface」安川奈緒

他人の住所を まずいところに書き込んだ そのあと走って 映画館に駆け込み すばやく感想を言えた 「いい映画だった すみずみまで希望がなくて」 お前の顔は裏返ってる 雨かと思った ももいろの服を着た男の人たち 女の人みたいに 胸をふくらませて サイコウ…

「マッケンジー、ピンク」安川奈緒

集中力がとだえてあなたが見知らぬ人に なることを もしくはあなたが見知らぬ 人になるまえに集中力がとだえることを どのように書けばいいのか グリーンのマッケンジー マッケンジー、グリーン これまでに何度「火事だと叫んだ」とい う言葉が書かれたのか …

「戦時下の生活」安川奈緒

戦時下の生活 あそびにいくといって倒れて 戦時下の生活 ひざがずるむけ ジュースを飲んで 苦しまないようにする いま複雑なしくみが動いたのが決定的 な打撃となって 荒れはてた いかにもあいつのやりそうなことだよ 戦時下の生活 望みどおりの暮らし 音楽 …

「ボンボン ボンボン スイート」安川奈緒

くるしいのに飴玉だけはあるんだ どうしても これほどまでに こ ころがはなれたことは ないから ようやく それは遅すぎもしたし ときに 早すぎもしたが 若者の 夜がきた 「どうか なにもしな いで いきてゆけますように」 やわらかいパンとあまいジャムを 食…

「連詩 ダーティーエピック・フラグメンツ」安川奈緒

「Inaugural(happy turn)」 縊死のパラダイムから見れば、すべては天使か、だが、これが傷跡だと認められてしまえば、まだ回帰の物語が始まってしまうから、それは避けて すべての開始は汚れている、すべての終わりもまた 神話は空間をひきしめず、共同体…

「You are not a patient, still ill」安川奈緒

パリは寒いでしょう パリは寒いでしょう そんなことしらないよ ここは地方の盆地の病院です 患者にしてくださいよ きのう間違い電話で 「あの、牛乳を百本おねがいします」 というのがありました 近所のおじさんが 「わたしのコレ(小指を立てて)がね」 と…

「テレビ 昆虫 就業」安川奈緒

とうとう部屋で昆虫が発見された 自分にがっくり 夜の穏やかなクイズ番組を見る 一緒に考えて 問題を解いてみる なかなか難しい おもしろかった テレビしか観ていないので昆虫が気に ならない 殺そうとも決して思わない 夜の料理番組で「いろいろなおにぎり…

「病気でも男でもない すこやかな女」安川奈緒

喫茶店でのことだが コーヒーカップと二枚の皿がある完璧な調和のもとに並んだ これはうれしいぞ捜しものが見つかる前兆だぞと考えた 隣のテーブルの男二人が力強く食べる こちらも負けないくらい力強く食べる おとこのひとはうらやましいな 嘔気も下痢もむ…

「ばっちい夫婦 さらしもの」安川奈緒

ほんとうにこわかったことなど ほんとうにこわかったことなど ないのだからあなたとわたしは 手をとり複雑な暮らし あなたの思い出は電車のことに 限られているのだからわたしは 都会のことをよく知っています あなたのかつての同級生と腕を からめたことも…

「凝視は消えてしまった」安川奈緒

かれらの暮らしわたしたちの暮らし いんらんの終わり うその病気 他人のしぐさを盗み見ないために 注意深くなるかれらをわたしたちは盗み見る そしてこれからは 陳腐と紋切り型のあいだで かれらの暮らしわたしたちの暮らし 食事 病院でのかれらをわたしたち…

「リーチュアルラブの機械」安川奈緒

部分的に機械でできているので 空港で撃たれてしまった ほんとうに撃たれてしまった 「男は三人しか存在しなかった」と叫んだ 部分的に機械でできているのに どうして髪を洗ってしまったのか あれほど止められていたのに 「女は下の名前で呼ばれる千佳子 千…

「深い森のような告白」安川奈緒

わたしの考えることはつつぬけだろう わかりやすい顔 なんでも食べる なにも話す必要はないだろう めずらしく彼が饒舌になった その露出への傾きとはうらはらに 千の葉が彼を覆い 守りぬくように思えた つつぬけであるはずのわたしも 氷まで食べている 彼は…

「夏が呼ばれた(誰かのくちびるを借りて)」安川奈緒

七月二十三日 わたしはひとつの単語のあたりで硬直している、その単語を見るとわたしはやろうとしていたことを忘れる、いま食べているものに顔をうずめてしまいたくなる、その単語はわたしに人との接触を禁じてしまった、外はどうなっているのか、わたしの知…

「まちがえて海にくるか?」安川奈緒

とつぜん海にでる わけない 「この砂はどこからくるのか」 まちがえて裸んぼ ラジオを飲みこむ お腹いっぱいになって深く眠る 両親を殺すひきこもりの感じで 指に力が入る 「むかしピアノを習ってました」 小学校の遠足のマネして 「はやく年寄りになりたい…

「Love Streams」安川奈緒

長い、ここから先はとても長い 恐ろしいほど多くの花 五才で容姿は固定された なんでこんなこと思い出すのか 始発がもうきた 十五、十六、十七才は暗かったな ストーカーまがいの電話をかけまくって 裏山を走りまわり山菜を盗み それでも趣味はジグソーパズ…

「Becoming you」安川奈緒

それは、ありやなしやの晦渋によってしたためられた足裏健康法…… お前はめくられるバーガーの類として生まれた、そしていくつかの傑作ポルノを残して死んでいく そのポルノは縦二〇センチ、横十五センチ、高さ三センチ、上から85、50、80である すなわ…

「必要性の丘から連絡する」安川奈緒

どうしてでしょうか、室外機のことしか考えないようにしていました 小さい頃は、質問と回答を強要する思想はいけない、と思いながら業者テストを抱きしめていました 欠食児童の典型でした 匍匐後退し続ける生が照らされるような 百点満点の波動でした 「宥子…

「薬局でのくすぐりが偉大だった日」安川奈緒

「とりたてて悩ましくもなく、とりたててアイドルでもない」が700円ぐらいで売られていた 丁寧さなど軽蔑している 今日は誰とも口をきかない 屈強なほうの飼育員と階差数列を学ぶような嬉しい日々はそう簡単には来ないだろう、と思う 昨日はチラッと札束…