melophobian

安川奈緒の現代詩手帖掲載詩などを写経のように書き写す。

「マッケンジー、ピンク」安川奈緒

集中力がとだえてあなたが見知らぬ人に

なることを もしくはあなたが見知らぬ

人になるまえに集中力がとだえることを

どのように書けばいいのか

 

グリーンのマッケンジー

マッケンジー、グリーン

 

これまでに何度「火事だと叫んだ」とい

う言葉が書かれたのか 顔が定着してし

まった 走る車に耳を押しつける しか

し べつにしにたくはないなとわかった

ときから心中がひかりかがやいて

 

「ほんとうにこわい ほんとう」

 

清潔さを誇りにおもって だれにもよび

とめられず不潔なまま それでも 昨日

はずっと音楽を聴いていた どこにも行

かずに ずっと ひとりで 音楽だけを

などといわないほうがいい

 

「ところが夏は待ちどおしい いつも」

 

他人のしぐさを盗み見ることは 犯罪だ

から でも あなたの車の乗りかたは

間違いだった あなたは「いいえ」と言

ったが それは時機をはずしていたので

救急車をよんでしまった どうする そ

れらふたつの間違いを

 

「区別ができない 区別ができない」

 

金はある この手のなかに ただ ねがう

のはこの手が どこかで 知らない都市で

わたしからはなれて 暮らしていることそ

して まだ見ていない映画はあなたの 身

体のなかにある

 

「看板を立てて あなたの値段をつけて」

 

表現の正確さに 若さが 根絶やしにされ

てしまう いまは あなたの 髪と住所と

名前を 混同することに すべてを賭けて

しかし 負けるために わたしとあなたは

ここで うわさになる それでも スピー

ドウェイをかきわけ マッケンジーを マ

ッケンジーとは何か マッケンジーは わ

たしとあなたを むすびつける たがいに

見知らぬまま わたしはマッケンジーを知

らない あなたはマッケンジーを知らない

あなたはわたしを知らない わたしはあな

たを知らない しかし べつに見知らぬま

までも心中はひかりかがやいて