melophobian

安川奈緒の現代詩手帖掲載詩などを写経のように書き写す。

「戦時下の生活」安川奈緒

戦時下の生活 あそびにいくといって倒れて

戦時下の生活 ひざがずるむけ

ジュースを飲んで 苦しまないようにする

いま複雑なしくみが動いたのが決定的

な打撃となって

荒れはてた

 

いかにもあいつのやりそうなことだよ

戦時下の生活 望みどおりの暮らし

音楽

避けられない憔悴と回復

わたしたちに共通の わたしたちのいない

風景

 

甘いパンの受けわたし 思い出の写真の

切り売り あなたの腰をわたしの首に

ぶらさげてください 緊張して

期待に震えて 生きられるように

 

戦時下の生活 激しい口論

あいつの心などしらないよ 声も

あいつの親戚などしらないよ

そのとき 上からいままで見たこともない

ものが覆いかぶさってきた

 

わたしの片目と あなたの片目が

むすびあわず 横にならんで

くすくす笑って

見つめるのは

わたしたちに共通の わたしたちのいない

風景

 

あいつは大きくて小さくて

下卑ているのに高貴で

辛いものと甘いものを食べて

アパートでテレビをみている

そしていま危機だといっている

 

戦時下の生活 あそびにいくといって

わたしとあなたは

ほほのキズのすべてを引きずり

あいつのアパートにいて

読むのは

「男の子と女の子のからだのフシギ!」

ピンポイントで

すごいやらしい!

外の天気は

とうてい口に出すことのできない危機的状況