melophobian

安川奈緒の現代詩手帖掲載詩などを写経のように書き写す。

「テレビ 昆虫 就業」安川奈緒

とうとう部屋で昆虫が発見された

自分にがっくり

 

夜の穏やかなクイズ番組を見る

一緒に考えて 問題を解いてみる

なかなか難しい おもしろかった

 

テレビしか観ていないので昆虫が気に

ならない 殺そうとも決して思わない

 

夜の料理番組で「いろいろなおにぎり」

というのを見る いろいろなおにぎりが

あった おもしろかった

 

昆虫がふえてもいいです 湿気が増してもべつにいいです

 

夜の番組に女の人が

たくさん出てきた おもしろかった

 

昆虫について 黒くて足が六本 しっかりしたつくりをしている

 

夜の映画を見る サスペンスなので

はらはらした おもしろかった

 

昆虫とテレビについて テレビの上を

昆虫が横切った そのときはたんぽぽ

の花の数 綿毛の生成 根のつくり

に関する番組のあと 星の番組 その

あとモンゴルの遊牧民の番組 スイスの

路面電車の番組 放送終了 放送開始

夜明けのニュース 朝のニュース

 

昆虫はテレビの後ろ側にまわった

やはり朝になると昆虫を殺さないわけに

いかないことははっきりしている

 

「あな あなた にも あなた にも

 旅行が りょこう 旅行ができ でき

 あなた 旅行 できます あなたにも

 旅行が できます でき 旅行 でき」

 

しかし別の可能性もある

それどころかあらゆる可能性が

 

よくわからない幹線道路沿いの

食堂で毎日働き 常連客に

「あんた よく来るわね」

次はプールの監視員になって子供に

「ほらほら 休憩中」

冬のあいだはスキー場の売店で

嘘みたいなうどんを出すことに

なるだろう そのあとは図書館に

務め本の整頓をする また看護婦

として働くこともあるだろう

屋台を引いていることがあるだろう

農業をして漁業をするだろう

会社員をするだろう

 

昆虫がテレビの内部に入り込んで

すごいことになって テレビが

爆発して昆虫と死ぬ

というのも

あるにはある