melophobian

安川奈緒の現代詩手帖掲載詩などを写経のように書き写す。

「03.9.12 Friday Sunny Personal」安川奈緒

ここは都会で近所のおばあさんが

おにぎりを道に叩きつけて怒っていた

このあたりで犬の鳴き声は人間の声とよく似ていて間違う

田舎でのびのびと育ったつもりはないけれど

田舎で陰険に育ったつもりはないけれど

 

他人を逆さまにして

 

69.6.21 satur rainy―――

「脱落セクト」は詩を転向の証とはしない!

 

と古本で買った「吉本隆明詩集」の最後のページにメモしてあったがこの文章の意味はまったくわからない

まだ詩集を古本に出す年齢ではない

 

他人を逆さまにして

その人の軽業を見たい

 

爪が自然にはがれるので

なにかの病気の前兆だと思って

調べて

なんの病気でもないとわかった

献血はぜったいにしない

 

他人を逆さまにして

その人の軽業を見たい

身体が沈むほどやわらかい椅子から

余裕の一服とともに

 

なにかいやなことを思い出すと

「うぎゃ」とか

「おわっ」などと口にする癖がある

むかし服がダサいといわれた

このまえ口が臭いといわれた

(だから他人はこわい)

友達が少なすぎる

よだれが匂う自分の枕が大好きだ

金曜の晴れで個人的なことは

すくいようもないが

他人を逆さまにして

その人の軽業を見たい

やわらかな椅子でもう寝てしまいたいが

もし軽業でしか切り抜けられないほどの

いやなことがあったら

椅子から立ち上がり

脚を振り上げ

腕をねじり

田舎の甘いかつての自分の部屋から

どたどたと走り去ったときからおそらく

覚悟して準備した心づくしの軽業を

「助けに来るな

    この不幸はわたしのもの」

 

誰にも会わない一日で

のんびり自転車をこいでいる事実と

想像の落差に驚いて派手に転倒した

そのとき身体は椅子から浮かび

脚が振り上がった

腕がねじれた

誰かが近づいてきた