melophobian

安川奈緒の現代詩手帖掲載詩などを写経のように書き写す。

「You are not a patient, still ill」安川奈緒

パリは寒いでしょう

パリは寒いでしょう

そんなことしらないよ

ここは地方の盆地の病院です

患者にしてくださいよ

 

きのう間違い電話で

「あの、牛乳を百本おねがいします」

というのがありました

近所のおじさんが

「わたしのコレ(小指を立てて)がね」

と言うのがおもしろかったです

ところでわたしは患者でしょうか

そうでなければ恥ずかしすぎる

偽患者のようにここにくるのは

 

何度も面談を受けていると

先生のことがすきになるのです

とにかく

「完全に治った 完全に治った」

と布団で身を震わせたこともありました

学校にやばいひとがいました

ある箇所をあるしかたで触らないと

気がすまないらしいのです

そのひとの周囲の木は葉がよく茂って

夏がくるようでした

 

作者が作品のなかで「わたしは狂人だ」と

言い放っているのはいいですね

こちらといえばトイレのしかたも

廊下の歩き方も健康そのもの

でも病院のこともすきになっちゃったのです

最寄りの駅まで歩いて 電車に乗って

家族は「いってらっしゃい」

これでは患者のわけないですね

半笑いで卑屈に

「いやぁ、ちょっとしんどくてねぇ はは」

 

待合室の人たちも患者かどうかわからないけれどもそれは待合室の外にでても同じことではないか たとえば電車のなかでも乗客の顔にかかる影がときどきあやうくなる わたしは待合室で学生らしい人と話した テレビでサンフランシスコは暑くなるでしょう と伝えていた 自分が患者かどうかもわからないのでなんだか恥ずかしいです ということを話して とりあえず診察が終わったら

 

「ちょっと遠くへ出て

       食事しましょう」

 

食事をしましょうということになった