melophobian

安川奈緒の現代詩手帖掲載詩などを写経のように書き写す。

「凝視は消えてしまった」安川奈緒

かれらの暮らしわたしたちの暮らし いんらんの終わり うその病気 他人のしぐさを盗み見ないために 注意深くなるかれらをわたしたちは盗み見る そしてこれからは 陳腐と紋切り型のあいだで かれらの暮らしわたしたちの暮らし 食事

 

病院でのかれらをわたしたちは盗み撮りするようだが なにかしている振りをしているかれらがりんごをねだるのを わたしたちは強く拒む それは一瞬の印象に過ぎないから 排泄かれらの暮らしわたしたちの暮らし いんらんの終わり 窓からは誰ももとめていない祭りが 他人の青い顔が見える 女が食べ物を持ってやってはこないとき かれら はわたしたちに期待するのか?

 

かれらの暮らしわたしたちの暮らし いんらんの終わり とともに 乳房が大きくひらかれる 女どうしで 満ち足りるとき 男と廊下が関係する かれらはそれを笑うがわたしたちはそれを笑うことができない 静脈をみつめる 静脈をみつめる かつて保健室があった かれらは その部屋に入り浸り ストーブと 女をみつめた そこに入ることの できないかれら わたしたち どうしてまだ 狂っていないのか このいま このときに 狂っていない 完全に病んでいる かれらの暮らしわたしたちの暮らし 誰も わたしたちを助けに来はしないことを 知っているから 抱き合おうか それはだめだ いちばんだめだ 家族がだめだ 夜がだめだ かれらの暮らしわたしたちの暮らし やはり

 

いんらんの終わり