melophobian

安川奈緒の現代詩手帖掲載詩などを写経のように書き写す。

「Love Streams」安川奈緒

長い、ここから先はとても長い

恐ろしいほど多くの花

五才で容姿は固定された

なんでこんなこと思い出すのか

始発がもうきた

 

十五、十六、十七才は暗かったな

ストーカーまがいの電話をかけまくって

裏山を走りまわり山菜を盗み

それでも趣味はジグソーパズル

 

十八才で何らかの常習

入院先で膀胱のサイズをほめられる

病院の窓だけが美しい

菜食をやめて肉食一本化へ

海のない土地に生まれたことを恨む

 

十九才で ああ とうとう

わかってしまった

自分の黒子の数のすごさが

これだけで一年を動揺のうちに

終えたわけではないが

男の影もなかったなそういえば

 

二十才で実家が呉服屋のくせに

成人式を蹴とばす

「なんでなんだろうね この子」

おばあちゃんを泣かす

しかし今日なにもかもが完治した

 

過去はたいした長さじゃなかった

今日はなんでこんなに長いのか

それにしてもあの顔を見ると昔のよくない

奔走や電話を忘れられる 笑いかけてくれ

これはどうも違うな笑ってくれ

「おまえクソだな」とかいって笑ってくれ

頼むから笑い飛ばしてくれ